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韓国の出版事情と、リードフォーアクションの読書会の可能性[後編]ビジネスの視点から

リーディング・ファシリテーターの
下良果林(しもらかな)です。

リードフォーアクションの読書会の輪が、
日本国内のみならず海外にも
広まりつつあることをご存じでしょうか。

今回は、韓国で貿易や出版などの事業を展開するかたわら、
リードフォーアクションの読書会を開催されている
徐 丞範(ソウ スンボム)さんインタビューの後編。

韓国での「活字離れ」や、出版を取り巻く環境、
徐さんご自身が今後取り組みたいことなど、
じっくりお話をうかがいました。

インタビュー前編はこちら

* * * * *

― 日本では「活字離れ」が深刻で、
出版業界の不況や書店の動向が取りざたされていますが、
韓国でも同様なのでしょうか?

日本もそうですが、韓国でも街の本屋は
大変な状況に置かれています。その一方で、
日本でも韓国でも特色のある本屋が増えつつあり、
そのような異色の本屋を紹介する
ガイドブックも出版されています。
何かしら特徴がないと、
本屋としてやっていけないのかもしれません。

読書会の会場を提供してくださっている本屋のご主人は、
お店を開く前には図書館協会の理事を務めていたこともあり、
本に関する知識の高い方です。
その本屋には定期購読コースがあり、
登録すると月に3000円なら3000円分、
5000円なら5000円分の本が送られてきます。

「自分はこういうテーマのこういう本が読みたい」
と伝えておくと、それをもとにご主人が
選書してくださるんです。
そのシステムを利用している人からは
「毎月どんな本が届くのかとても楽しみだ」
と評判のようです。

自分で選ぶとなると、どうしても本のラインナップに
偏りが出てしまうもの。そのようなときに、
他人の視点は大切ですね。
それが結局キュレーションというものだと思います。

韓国でも日本の紀伊國屋書店のように大きな書店はあるのですが、
どの書店もラインナップが似たり寄ったり。
「こういう本もあったんだ」という驚きはなかなか得られません。

何となく気になっていたけれど自分では買わなかった、
という本でも、他人からすすめられて読んでみると
「なかなかいいな」と思う。
そんな体験はよくあるものです。
読んで価値のあるものだと、
他の人にもすすめたくなりますよね。
そういう本屋さん、本のすすめ方があるというのは、
素晴らしいことだと思っています。

韓国の出版事情は……もしかしたら
日本以上に深刻かもしれないですね。
皆、とにかく本を読まない。
特に、新聞をとる人がぐっと減りました。

なぜなら、ニュースは全部インターネットに
上がっているからです。日本だとニュース記事を
全文読むのに「ここから先は有料会員登録者のみ」
という形になっていますが、
韓国ではそれがないんです。
韓国では新聞記事はすべて、
ネット上で無料閲覧が可能です。

韓国では、SNSの「LINE」をつくったことで知られる
NAVERがポータルサイトとして圧倒的に強いので、
今や「NAVERさえチェックすればよい」という状況です。

Facebookからも旬の情報が入ってくるようになり、
活字離れが深刻化していますね。
韓国はIT強国と呼ばれるくらい早い時期から
インターネットがさかん。
関連するベンチャー企業も多いので、
皆ネットに慣れてしまい、本を読まないんです。

しかしそのような流れの中で、
出版業界が完全に潰れてしまうのかと思いきや、
異色の本屋がどんどん出現してきている
というのは面白いですよね。

韓国はAmazonが未だに入ってきていないんです。
「そろそろ入ってくるのではないか」
という噂だけはずっとあるのですが、まだないですね。
韓国では大手書店によるオンラインショップが3つほどあり、
それらがオンライン書店のほとんどを占めています。
特に「教保文庫」という書店は、オンライン・リアルともに強大な書店です。

― 韓国では、どのような本が読まれているのでしょうか。

韓国でも、日本のようにビジネス書の有名なものは
すぐに翻訳されますね。もちろん有名な小説家の本も
入ってきています。

基本的な流れは日本とかなり
似ているのではないでしょうか。
ただ、日本で流行ったから韓国でも、
という流れではないですね。

韓国で一番売れている日本人作家は、
斎藤孝さんという教育学者です。
なぜか彼の本は韓国でも売れているので、
彼の著書の中には韓国でも
共感できるポイントがあるのではないでしょうか。

読書法に関する本も、韓国では結構売れていますね。
「僕も書こうかな」と思っているんですよ(笑)。
リードフォーアクションやその他の読書メソッドを
自分なりに解釈しつつ、読書会活動の事例も含めて。

今後、読書会の開催実績が増えてくれば、
読書に関して書けるかもしれないな、と考えています。

― 読書会を展開している団体は、韓国にもあるのでしょうか?

韓国でも、読書会の存在そのものはあります。

最も大きいのは、韓国で「ナビ」と呼ばれている団体。
韓国語で蝶々という意味です。
なぜ蝶々と名付けたのかは不明ですが……。
ソウルで開催される読書会には「ソウルナビ」、
プサンでおこなわれているものには
「プサンナビ」と地名が頭に付いてくるくらいで、
韓国では数万人規模の組織です。

ナビに参加したことがありませんが、
聞くところによればやはり課題図書を
事前に読まなければならず、
課題も決められているそうです。

ある程度読み込んでからその内容を
抜粋して発表したり、
皆で意見をシェアしたものをまとめたり、
というやり方のようですね。
本の著者が参加して講演会をすることも
あるそうです。

ナビの背後には出版社がつき、
その会社の刊行物を販売したり、
または『7つの習慣』をもとにした
フランクリン・プランナー手帳の韓国版バインダーを販売したり、
ということをしています。

新しい参加者にはマネージャーと呼ばれる人間がついて
面倒を見てくれるのですが、
お世話をしてもらううちに
「何か買わないとマズいのかな」
と思ってつい手帳を買ってしまう、
ということもあるのだとか(笑)。

でも、ナビの存在によって
読書会自体の認知度は上がっていますし、
課題図書に指定された本は
それなりに売れています。

著者としてナビに呼ばれれば
自分の本を買ってもらえるわけですから
嬉しいですよね。
そのような良い循環が生まれていて、
ビジネスとしても成功しています。

ナビのほかにもうひとつ
韓国の面白い読書会を挙げるとすると、
完全に有料化されている読書会組織があります。
参加するには年間約3万円の会費が必要。
そこでは1年を4学期に区切り、
音楽なら音楽、科学なら科学、
といった分科会にわけ、
それぞれに座長のような存在の人物がついて
参加者を指導します。

座長はその分野における専門家。
参加者は、座長が決めた課題図書の感想文を
必ず提出しないと脱落してしまうのだそうです。

その話を最初聞いたときには、半信半疑でしたね。
「3万円払って頑張って読書感想文を書かないとダメだなんて……
そんなことをわざわざする人がいるのか?」と。
でもビジネスとして上手くいっているそうです。

そこに参加しているのは
20代~30代の若い人が中心らしいのですが、
今韓国では就職がなかなか厳しく、
若者の不満のはけ口がない。

その中で「それくらい勉強しないと不安だ」
という思いがあり、そこに有料読書会のような
ビジネスモデルが刺さったのかもしれないですね。
若者はアルバイトしてお金をため、
わざわざ時間をつくってそこに通い、
頑張って勉強しているそうです。

― 徐さんご自身、出版社を運営されています。
出版界において、今後こういうことがしてみたい、
という思いはございますか?

もともと自分でも本を執筆したいという思いは、
強く持っていました。しかも日本語で。
その夢が、実は来年実現しそうなんです。

テーマは日韓関係。
かつては韓流ブームも起こったほど
日本では韓国に対して
良好なイメージがあったはずなのに、
ある年「嫌韓論」に関するコミックが出版され、
それ以来関連本が続々と出るようになり、
すっかり嫌韓ブームになってしまった。

僕は小学校5年生のときに日本に来て、
高校2年生まで7年ほど日本で暮らし、
両方の文化を知っています。
「嫌韓論は捨てられる」
「韓国の本音がわかれば、日韓のビジネスは上手くいく」
ということをテーマにした本を出すという夢が、
ようやくまとまりました。

実際、今でも日本の若者は
韓国を訪れて焼肉を楽しんだりしていますし、
逆に韓国人観光客が
日本によく訪れたりしていますよね。
先入観を持たずに普通に付き合っていれば、
まったく違和感はないはずなんです。

日本国内でも、住んでいる地域が違えば
風習や方言が異なりますよね。それと同じこと。
顔は同じアジア人同士でも、
国や文化が違うのだとわかれば、
その方が接しやすいのではないでしょうか。

「なんでそんなことをするの?」
「だって外国人なんだから仕方ないじゃない」と。

僕はいわゆる在日韓国人とも違う立場でしたので、
日韓双方の文化を体験していますが、
自身のアイデンティティを含め
とても悩んだ時期がありました。
その体験を何としても本という形にして
世に出したかった。それがようやく
実現までこぎつけられたのは、とても嬉しいです。

そういう意味では、
リーディング・ファシリテーターになってからこの一年、
自分自身にずいぶん変化が生じたと実感しています。

韓国で読書法に関する本を出している人が
多いとお伝えしましたが、
読書法を教える一方で本の書き方について教えている、
という人もいます。

彼らは出版社も持っており、
他の出版社で通らなかった
受講生たちの企画をそこで出版する、
というスタイルをとっています。
よその出版社としても、
そのスクール出身者の企画は
似たり寄ったりで特徴がない、
ということがわかっているので、
企画書が送られてきてもスルーしてしまうらしいです。

スクールに通って研修を受けて
すぐ良い本が書けるか、と言われれば、
そんなことはないですよね。
やはりコンテンツが重要です。

コンテンツは持っているけれど書くのに自信がない、
そんな時間もないし、
そもそも出版関係者との出会いもない、
という人は多いと思います。

その意味で、日本で活躍されている
ブックライター上阪徹さんはすごいな、
と思いますね。
今までゴーストライターという
イメージだった仕事を「ブックライター」
というポジティブなイメージに変え、
そのトップバッターとして活躍されている。
一度、上阪さんから教えを請いたいものです。

韓国でも、力のあるライターを輩出し、
そのようなスタッフとともに良い本を作っていく。
やり甲斐があるビジネスだと考えています。

徐 丞範さんプロフィールはこちら

(2017年10月取材 下良果林)

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